TOP > コラム > ITコンサルタント美咲いずみが行く > 第74回 コロナ禍を乗り越える健康経営の戦略(2)~健康投資の実践とそのアプローチ
新型コロナをきっかけに、多くの企業がテレワークを実施するようになりました。テレワークで、さまざまな業務が効率化するなどメリットが非常に多い反面、そのデメリットも数多く取りざたされています。なかでも、従業員と直接会えないなか、従業員の健康状態を把握しきれない管理者も多いのではないでしょうか。 |
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YMC電子工業(以下YMC)は、埼玉県にある従業員約280人のEMS(Electronics Manufacturing Service)企業だ。同社の顧問ITコンサルタントである美咲いずみは、毎週月曜日のシステム部の部内会議に同席し、そのあと山田昭CIOとのコンサルティング・セッションの時間を持っている。
昨年春の緊急事態宣言以後、YMCも主要な業務をほぼテレワークに切り替えた。テレワークで従業員の健康状態が分からないという山田の不安に、いずみは「健康経営」を提案し、その実践に向けたプロセスを説明した。山田は「健康経営」に好感を抱き、コロナ以後も継続した取り組みにしていきたいと言う。いずみは、それを継続的に行っていくためのフィードバックをどうすればいいのか、また健康経営の評価方法について説明しようとしていた。
山田は疑問を呈する。「PDCAサイクルを回すために健康経営を評価するのは、難しそうだ。達成度を数値化するのも何を基準にしたらいいのか、今のところ思い浮かばないな」
「はい。健康投資のPDCAを回すために必要な定量評価指標を体系化する。これは難しいことであり、健康経営の課題とも言えます。健康施策の効果が見えにくいままだと、継続的にモチベーションを維持できなくなります。また、KPIの設定もしていかないとですね」
「何か分かりやすいフレームワークがあるといいな」
「次の資料をご覧ください」
出典:「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」
平成28年9月 経済産業省 ヘルスケア産業課 p.11
「これは評価の流れをビジュアルにしたものだね」
「はい。『医療の質』を定量的に測る指標として,ドナベディアン医学博士が示したストラクチャー・プロセス・アウトカムという有名な3分類があります。それを利用する形で作成された健康経営評価指標のフレームがこちらの資料です」
「健康経営の構造と、実施の過程と、その成果かな」
「はい。まず、ストラクチャーは、健康経営を実践するための経営層のコミットメントや、人材・組織体制の有無、構成のことです。これらを測る指標としては、経営理念としての健康経営の位置付けの確認、産業医やコメディカルなどとの連携体制、健保組合など保険者との連携の有無などが考えられます」
「なるほど」
「次にプロセスは、健康経営を実践するにあたってのさまざまな施策が機能しているかどうか?を判断する指標です。健診受診率や保健指導実施率などで測ることができます」
「コロナだからと病院を避けて健康診断をしない従業員も多いようだ。その辺り、しっかりチェックしたいな」
「最後にアウトカムは、適切なストラクチャーにおいて、提供されるプロセスが従業員の健康状態や、企業利益に結びついていることを評価する指標です。プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムにおける生産性、身体的指標、喫煙や飲酒、運動、睡眠休養など生活習慣指標、心理的指標、就業関連指標といったものを指標にできます」
「指標にできる要素は、たくさんあるんだね」
「そして、この評価指標を先ほどお見せした健康経営実践の体系図に当てはめると、このようになります」
出典:「企業の「健康経営」ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~(改訂第1版)」
平成28年9月 経済産業省 ヘルスケア産業課 p.13
「なるほど、健康経営を実施する方法がよく分かったよ。ただ…」
「いかがしました?」
「ただ、やり方を知れば知るほど、自社だけで実施していくことの難しさを感じるね。いざ実際にやろうものなら、自前で人や時間…さまざまなコストがかかりそうだ。何か健康経営を支援してくれるようなサービスを知らないかい?」
「健康経営を支援するサービスを提供する企業は、ここ数年増えています」
「それだけ健康経営が注目されて来たってことだ」
「はい。例えば、ヘルスケア産業が提供する商品やサービス内容はさまざまです」
出典:「健康経営の推進について」令和2年9月 経済産業省 ヘルスケア産業課 p20
「実にたくさんあるなあ。」
「興味深い例として、日立システムズとタニタヘルスリンクが連携して「健康経営支援サービス」を開発しました。日立システムズがこれまで取り組んできた実績を生かし、企業が健康経営に取り組むために必要な検討項目の提示や健康経営宣言の提案、推進体制づくりなど、ニーズに沿った提案・支援から健康経営方針の策定をサポートします」
「つまり、ITと健康経営を掛け合わせたということかな?」
「おっしゃる通りです。従業員一人ひとりにキーデバイスとなる活動量計を配付するほか、オフィス内に通信機能を搭載した体組成計や血圧計を備えた計測スポット『健康ステーション』を設置します。活動量計や『健康ステーション』で計測したデータは、タニタヘルスの健康管理システムによりインターネット上で管理し、従業員が自身の身体の状態の変化をいつでもパソコンやスマホから確認できるようにします」
「健康管理をスマホでできるのは、簡単でいいね」
「さらには自身の健康行動により、身体の変化が連動して分かります。歩くことで筋肉量・体脂肪率・内臓脂肪レベルの変化がグラフ化され、これにより自分ごと化し、健康行動の実践と定着をサポートします。そのほか、従業員のモチベーションアップ維持のためのインセンティブや、コミュニケーション活性化のための『バーチャルウォーキングラリー』も開催できます」
「確かに健康に無関心な人は多いから、その視点は大事だね。僕も若い頃は健康なんて意識しなかったもの」
「三日坊主で終わらないように、無理なく健康管理をできる仕組みになっているようです。従業員に対し、健康の意識を高め、健康習慣の定着を図ることで、一連の健康づくりを効率よくサポートし、課題を持つ企業の健康経営推進を支援してくれるみたいですね」
「なるほど。テレワークで有効な施策は、あるかな?」
「はい。『音声こころ分析サービス』というものがあります。テレワークで顔が見えなくても音声は聞こえますよね。『音声こころ分析サービス』はその名の通り、音声を分析し、心の状態を見える化し、メンタル疾患の予防や早期発見を促します」
「面白い。ちょっと検討してみる価値がありそうだ」
コロナ禍の影響で、空気環境対策の重要性が高まっています。換気および殺菌設備の不足は IR にも影響を与えかねません。オフィス、工場、医療・介護・福祉施設、商業施設、飲食店などあらゆる場所で空気環境対策が求められています。しかし、そのために換気扇や空調装置などをすべて入れ替えるとなると、大変なコストがかかります。設置場所を選ばない後付けの装置で空気環境対策ができるとすれば、いかがでしょうか?
[ITブレークスルー代表 森川 滋之 記]
* この物語は、筆者の見解をもとに構成されています。
日立システムズの公式見解を示すものではありません。
* 文章中に記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。